【連載企画 第5回】
アートディレクター・ワキリエによる「日本のデザイン」ルーツ
アートディレクターワキリエ
株式会社スマイルD.C. 代表。100年後みても美しいデザインをモットーにウエディング、カルチャー、ライフスタイルを中心に様々なクリエイティブを手掛ける。著書に「ボタニカルウエディング&デザイン」「スマイルウエディング」など多数。社団法人国際婚礼文化協会(IBCA)代表理事も務める。
家の印である家紋。
日本独自の文化でありデザインの原点
結婚を決めたとき、自分を育み、見守ってくれた家族を思ってあらためて感謝の気持ちがわきあがってくるもの。人生を振り返り、お互いの家族についても理解を深めることで、自分たちのルーツやご先祖を考えるきっかけにもなります。先祖がいるからこそ、ふたりが生まれて出会った奇跡があり、受け継がれた先祖たちの思いや願いが、新たな家を創ることでふたりの未来へとつながっていきます。
日本には「家」を表す印として家紋がありますが、結婚を決めて初めて家の紋を知った人もいるでしょう。家紋は誰もが持つことができる日本独特の文化。平安時代に公家が自分たちの装束や調度に印としてつけた紋がその由来ともいわれています。江戸時代、苗字帯刀は許されなかった庶民にも家紋を持つことは許されたので多くの人に広がり、今では5万種類ものデザインがあるそうです。円と直線のシンプルな構成でありながら無数のバリエーションが生まれている家紋は、日本のデザインの原点ともいえます。森羅万象をモチーフとして余計なものを削ぎ落とす引き算の美学が、日本の自然や文化の豊かさを伝えています。
下町情緒が残る東京・東上野に、着物に家紋を手で描く職人・紋章上繪師の波戸場承龍さんと耀次さん親子の工房「京源」があります。伝統の技術を継承しながらデジタル技術を駆使し、現代の感覚を融合。オリジナル家紋をはじめ企業やブランドのデザインなど幅広いジャンルにて「デザインとしての家紋」を発信し、新しい価値を提案しています。
自由度が高く個人で創ることができるのも家紋の魅力。ふたりが新しい家庭を築くスタートとなる機会に、実家の家紋を調べて大切にするのもいいし、ふたりの家庭の家紋を新しく創るのも大きな意義があります。家紋をアートに昇華させた波戸場承龍さんと耀次さんが新郎新婦のために創り上げるオリジナルの家紋は、未来に誇れる宝物となることでしょう。
「京源」では家紋をモチーフにしたプロダクトを展開。写真は、うすふきグラスに家紋をオーダーでサンドブラストした商品。職人の卓越した技術と繊細な家紋の造形美の融合。
ふたりの家系図を創った新郎新婦からの依頼でウエルカムボードにデザインしたもの。あらためて親や先祖に感謝の気持ちが深まり、日本人のつながりを感じられます。
京源三代目 紋章上繪師波戸場 承龍
着物に家紋を手で描き入れる紋章上繪師としての技術を継承する一方、家紋の魅力を新しい形で表現したいという想いで、2007年より家紋のアート作品を制作。紋章上繪師ならではの「紋曼荼羅®MON-MANDALA」というオリジナル技法でさまざまなデザインを生み出す。