希望者殺到、
潮来伝統の「嫁入り舟」での
嫁入り風景を密着取材
「潮来花嫁さんは〜潮来花嫁さんは〜舟で行く〜」という歌はご存知だろうか。昭和30年代に大ヒットした、花村菊江さんの「潮来花嫁さん」の歌詞で、水郷地帯である茨城県の潮来周辺で「サッパ舟」と呼ばれる手漕ぎ舟に乗ってお嫁に行く花嫁を歌った歌だ。
当時は、潮来周辺の交通手段は水路がメインだったが、時代の流れと共に陸路が発達し、舟での嫁入りも珍しいものとなってしまった。しかし、その得難い風習を後世へと伝えたいと、潮来市役所では毎年5月下旬〜6月下旬に行われる「水郷潮来あやめまつり」開催期間に嫁入り舟を復活させている。花嫁が舟に乗り新郎のもとへ嫁に行くという懐かしい光景を体験したいと、毎年多くの応募があり、昨年などは実に80組を超える応募があったという。
この嫁入り舟に、日本の結婚式無料相談にて会場選びの相談をし、今年2月に東京での結婚式を終えた楠俊介さん悠里さんが見事当選したとの知らせを受け、密着取材をさせて頂くことになった。
今年は明治時代に建てられた歴史的建造物「水郷旧家 磯山邸」から出発。
磯山邸を出発した人力車は、車夫による詩吟が響き渡る中、観光客の祝福を受けながら潮来のまちを進む。車上の白無垢姿の花嫁に、地元や観光客から「おめでとう!」という祝福の声があちらこちらから飛ぶ。皆が笑顔で手を振る姿は本当に心温まる光景だ。
往年の嫁入り舟もこのような光景だったのだろうと思うと、儀式というだけではない、日本古来の挙式スタイルの素晴らしさを改めて感じることができる。
船着き場のある水郷潮来あやめ園に到着すると、待ちかねた多くの人が拍手で花嫁を出迎えてくれた。つい先日から咲き始めたというあやめも満開とまではいかなかったが、祝福するようにとても美しく咲き、行列に文字通り花を添える。
「これより嫁入り舟を執り行います」のアナウンスを合図に、長持ち唄が響き渡ると大きな拍手が沸き起こる。その中を船頭に先導されて叔父の慶さん、花嫁の悠里さん、叔母の佳恵さんの順にゆっくりゆっくり園内を練り歩き、船着き場へ。
嫁入り舟が進みだすと、「潮来花嫁さん」が流れ、川の両岸から、また、橋の上からも多くの拍手が沸き起こった。
前川を下り常陸利根川に出ると、「噴水の船着場」で花嫁の到着を待つ新郎、俊介さん。
舟を降り、幸せを呼ぶ鍵をふたりでかけると、水郷潮来「愛」宣言カップル認定証が授与された。
このイベントを主催する水郷潮来あやめまつり大会実行委員会事務局でお話を聞いた。
「潮来市の商工会や観光協会、市役所のスタッフが一丸となりこのイベントを盛り上げています。」と田中良樹さん。
あちらこちらで半纏を着て活躍しているのもほぼスタッフだという。「現在は嫁入り舟は、主にあやめまつりの期間に運航するイベントとなっておりますが、今後、年間を通して嫁入りの際には嫁入り舟に、という環境を作っていきたい。」と抱負を述べる。
実際に取材していても、とにかく沿道からの祝福の多さ、そして舟で進む花嫁を全員が温かく見守る光景のなどが印象的だった。
嫁入り舟に使われたサッパ舟は、このあたりで農作業に使われていたような舟だそうだ。そんな日常の道具を精一杯使い、二人の門出を地域全体で祝う。そんな、挙式が個人だけでなく皆の喜びであったころの様子を垣間見れたように思う。
花嫁の悠里さんは、学生の頃茨城に縁があり、昨年のあやめまつりを見て、白無垢姿で嫁入りする姿を大好きな祖母にも見せたいと、応募したそうだ。
残念ながら、とても楽しみにしてくれていたという祖母が今年4月に急逝。けれども「きっと今、私のそばで見てくれていると信じています。」と笑みを浮かべる姿は、沿道だけでなく、きっと空の上からの視線も喜ばせていたに違いない。