現代アート作家が描く、生命の天井画のある神社でパワーを頂く
天井画と聞いて、神社をイメージすることは少ないのではないだろうか。
特にそれが現代アート作家の描いた色鮮やかなアクリル画ともなれば、いったいどんな風になっているのだろうとむしろ興味を持ってしまうかもしれない。
そんな試みの舞台となった神社は南沢氷川神社。川や泉に恵まれた東久留米は、約3万年前の旧石器時代から人類が住んでいたと言われ、その跡をいたるところに残している。現在も、約70カ所もの場所から湧き水が出るこの地で、古来より湧水守護神として崇拝されている地域の氏神だ。
ここに天井画が奉納されることになったのは、二年前に実施された、地元の文化・芸術振興を目的とし市民で活動する「東久留米アートプロジェクト」がきっかけだ。「東久留米アートプロジェクト」とは、美術館を持たない東久留米市において、子どもたちに残していける素敵な芸術・文化を提供することを目的とした取り組みで、アートの専門家だけではなく、地域でそれぞれの分野で活躍する個性豊かなメンバーで運営している。
天井画を描いたのは、東久留米市在住の作家、大小島真木さん。「東久留米アートプロジェクト」を呼びかけたパン店「プチ・フール」を営む宮沢さんに「何か描いてみない?と言われたことから始まったんです。」
最初は小さな絵馬か天井の一部程度の話だったと笑うが、「せっかく地元で作品を作るなら、地域にとって意味のある場所がいいのでは。」というプロジェクトの希望を汲んだ同神社の宮司の栗原さんの協力もあり、約3カ月の制作期間を経た「生きとし生けるものたちの饗宴(きょうえん)」は、現在316×490cmの圧倒的な大きさを誇る。
幼少の頃から、東久留米の美しい水で育ったという大小島さんは、上野の森美術館で20年以上も続く「VOC展」での奨励賞の他、ワンダーウォール賞受賞など国際的に活動している芸術家だ。この春には海洋生物保護のためのフランスの調査船タラ号にレジデンスアーティストとして乗り込み、世界の海を描いてきた。
そんな国際的な感覚を持つ彼女だが、幼少の頃はこの豊かで美しい水を当然と思っていたという。けれども、様々な国で多くの文化や宗教、そして経験を得たことで、改めて「ここの水は私の身体を確かに作ってきた。私の血肉は水と土と太陽とたくさんの生きものたちによって、循環して行かされている。」と感じたという。
その気づきをテーマに描いた天井画は、たくさんの生物たちが光の方へ向いているようにも、豊かな水源から生まれ出てきているようにも見える。青をベースにした鮮やかな色合いも、以前からここにあったかのようにしっくりと拝殿に馴染んでいるから驚きだ。
2015年の同プロジェクト期間が終わった後、ある美術展でも展示されたこの絵は、見に行った人から「神社で見る方がしっくりするし魅力的だった。」と言われたそうだ。
日本古来の神道は、森羅万象に全ての神の存在を認めた「八百万神」という考え方で表される。現代的な表現方法ながら多くの生物が生き生きと描いた「生きとし生けるものたちの饗宴」は、まさにその考え方を体現しているとも言える。
それ故に「ぜひこのまま天井に設置しておいてほしい」という地元の要望も強かったのだろう、二年たった今、同神社に正式に奉納されることとなった。