【和婚と指輪】
ふたりに寄り添う
一生の宝物をつくる
神前式と指輪
指輪の歴史は古く、その起源は古代ローマともいわれる。ヨーロッパを中心に世界中で指輪が贈られるようになり、明治時代に文明開化で日本に入ってきた。だから、江戸時代に指輪をしている人はほとんどいなかったし、近代の西欧化したライフスタイルの産物ともいえる。
ここまでは和婚とは関係ない話だが、キリスト教式だけではなく神前の結婚式でも、指輪交換をする<。ふたりの希望に応じて式中に指輪交換が可能というところが多く、誓いの盃を重ねるのと同様に、手と手を重ねる、ふたりを結ぶということに意味があるとして、指輪交換は積極的に式次第に取り入れられている。そして、そんな神前式での指輪交換のシーンでよく見かけるのが「ichi」のロゴが入った桐箱だ。どんなブランドか、ご存知だろうか。
一心 一生 一点
ichiという名前は、「一心」「一生」「一点」の、いち。「一期一会」(いちごいちえ)の、いちでもある。コンセプトとして、ふたりが一生の愛を誓う一点物の結婚指輪を、職人が一心につくりあげる。工房は東京・銀座に、ほかに渋谷・名古屋・大阪にも店舗があり、店にいるのは全員が職人。指輪だけでなくアクセサリー、革のかばんや財布など、職人が自ら手づくりする様々なものを制作し販売している。
鍛造へのこだわり
ichiでは、リングをつくる製法として、「鍛造」(たんぞう)にこだわってきた。指輪の作り方として現在主流なのは、型を作って流し込む「鋳造」(ちゅうぞう)という大量生産・大量販売に適した方法。これに対し鍛造は、地金を熱して叩き金属の結晶を締める、金属を鍛えて成形する技法だ。その歴史は、指輪の歴史よりも、ずっと長い。
古来日本では「刀工」、刀鍛冶が、この製法で日本刀をつくってきた。武士の魂とまでいわれた日本刀、それと同様に一点ずつ人の手によってつくりあげる指輪は、一生ものにふさわしい強度と、シンプルでありながら豊かな美しさに満ちている。人が手でつくる、一見非効率な、原始的製法。しかし、そこにこそ「和」が感じられるのではないか。ふたりの一生に寄り沿う一点物は、長く使いつづけるうちに、かけがえのない宝物になっていく。それこそが職人冥利に尽きることだ、とichiは考えている。