和暦〜自然と共に生活を営んできた
日本人の美しい暦
日本人が自然と一体となって生活を営んでいた時代に使われていた「和暦」。森羅万象、すべてのものに神が宿ると考えた「八百万の神」の精神は豊かな自然を繊細に感じるなかで生まれた。かつての日本人の尺度や感性を「和暦」を通じて知ることにより、結婚式という晴れの日はもちろん新生活も、また新しい角度で創り上げることができるだろう。
旧暦
旧暦(きゅうれき)とは、月と太陽の両方の運行を取り入れた太陰太陽暦(たいいんたいようれき)である。日本には奈良時代に導入された。自然が豊かで農業とともに歩んできた日本人にとって太陰太陽暦は自然に受け入れられるものだったのだ。その後、明治6年から太陽暦が採用されるまで千二百年以上に渡って私たち日本人の生活の軸になり続けた。
二十四節気
太陽が地球を一周するのを基に24の季節に分けたのが「二十四節気」。一年を約15日毎の24の節目に分け、「節(せつ)」と「中(ちゅう)」が交互に設けられている。立春(りっしゅん)は節、雨水(うすい)は中、啓蟄(けいちつ)は節、春分(しゅんぶん)は中。その時々にふさわしい季節を表す名前がつけられている。
立春(りっしゅん)
2月4日〜2月18日頃
年の始まりとした「立春」は一年のうちでは寒さがもっとも厳しい時ながら、寒さの峠を越えて、ほころび始める梅の花に春を感じる時期として、一年の始まりに相応しいとされた。八十八夜や半夏生(はんげしょう)などの節目は、立春から数えた日数で決められている。現代でも節分を機に人生の流れが変わるともいわれ、新しい流れの始まり、すなわち結婚式に相応しい時期ともいえる。もっとも寒い時から徐々にあたたかくなる、花開いていくこの季節に結婚式を挙げることは人生においても上っていく一方であるというジンクスとなるだろう。
春分(しゅんぶん)
3月20日〜4月3日頃
「春分の日」とは昼と夜の長さが同じになる日であり、「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」として国民の祝日に制定されている。長引く寒さも春分をすぎると一気に遠のくことから、季節の大きな変わり目として重要視されてきた。入学や入社の時期であり、新しいことを始める時期だ。雀が巣作りを始めたり、桜の花が次々に開花する華やかな時期でもある。自然も世の中も新しいスタートをきる時だからこそ、ふたりの新しい門出を始めるのにもふさわしい。この時期の挙式は満開の桜の下で参進が行えたり、披露宴の装花に桜の花を使ったり、桜の花をモチーフにしたメニューが用意されていたりと、思う存分季節を堪能する結婚式を行うことができる。
清明(せいめい)
「清明」とは「天地万物が清らかで生き生きとした明るさに輝いている様」。すべてがきらめくような春の華やぎに満ちていく頃。花が咲き乱れ、鳥のさえずりが聞こえ、空は青く澄み渡り、爽やかな風が吹き抜ける。一年のなかでもっとも季節を心地よく感じる時ではないだろうか。この一番良い時期に古代中国では日本のお盆のように祖先の墓に参り、掃除をし、お供えをしていた。沖縄では現在もシーミー祭(清明祭)が行われている。季節を感じながら墓参りをし、青空の下で食事を楽しむ。結婚式と同じく、家族の絆を強める行事が行われる尊い時期なのだ。
七十二候
「二十四節気」をさらに3つの期間「初候・次候・末候」に分けたものが「七十二候」。おおよそ15日間を3日に分けるとすると5日間。昔の人がいかに季節の変化に敏感であったかがわかる。古代中国でつけられた呼び方がそのまま使われている二十四節気に対し、七十二候は、日本の風土に合わせてアレンジされて伝えられている。「東風凍解(とうふうこおりをとく)」、「黄鶯(うぐいすなく)」、「魚上氷(うおこおりをいずる)」など、その時期の動物や鳥の様子、花の開花、気象の情報など、こまやかな変化を知ることができる。招待状に「牡丹華(ぼたんはなさく)ころ結婚式を挙げます。」なんて書いてあったらそれだけで、ゲストは美しい結婚式に想いを馳せるに違いない。
草木萌動(くさきもえうごく)
3月1日〜3月5日頃
草木がほんのりと緑に色づき始め、土の中や枝々からいっせいに芽生え始める時期が「草木萌動」。字のごとく新しい命がぶわっと生まれ始める時だ。また、結婚式で出される蛤(はまぐり)の旬の時期でもある。蛤が結婚式などで出されるのは、蛤の貝殻だけは決して他の蛤の貝殻とは合わないので、一度ペアになったら二度と他へ心を移すことがない、女性の美徳や幸せの象徴だとされているからだ。すべてのものが生まれ出る時、女性の幸せの象徴である蛤の旬の季節に結婚式を挙げる花嫁は、きっと幸せな人生を送るのだろう。
桃始笑(ももはじめてさく)
3月11日〜3月15日頃
昔は花が咲くことを「笑」と書いていたそうだ。まさに花がほころび開花する様は笑っているようでもある。女の子の無邪気な笑顔をおもわせるのが桃の花。漢字を見ているだけで幸せな気持ちになる「桃始笑」は文字通り、桃の花が咲き始める頃。桃の節句といえばひな祭だが、西暦の3月3日にはまだ桃は咲いていないことが多い。旧暦通り4月初旬にひな祭りを行っている地方もある。「桃始笑ころに結婚式を挙げます」なんて招待状をもらったら、それだけで幸せな結婚式のワンシーンが目に浮かぶこと間違いない。
吉日は自分でつくる
古より日本人は縁起をかつぎ、日取りを気にして生きてきた。その目安となったのが暦に書かれていたさまざまな暦注だった。しかし、それは所詮、人間が行動の指針として勝手に決めたもの。大安も仏滅も規則正しく巡ってくる曜日のようなもので、明治以降に流行した迷信なのだ。
いずれにしても日取りを選ぶということは幸福を願う人々の、普遍的な願いから発したもの。その基本を踏まえつつ、自分たちにとって、本当の「吉日」はいつなのかを考えてみよう。二人の出会いの中で大切な節目となった日や、忘れられない思い出になった日はないだろうか。昔の人々は月の満ち欠けや季節の変わり目を重要視し、祭や祝いの行事を行ってきた。これからの時代は原点に帰って、昔の人々のように自然のリズムに注意を払い、自分たちが主体的に「吉日」を作っていく必要もありそうだ。いちばん大切なのは、自然の流れがあること。バイオリズムやタイミングが無理なく自然に合う時が、いちばんの吉日なのだ。さまざまな行事の始まりがそうであったように、自分たちなりの吉日として直感で選び、そのことに深く感謝する心があれば、その日は特別な素晴らしい幸運に満ちた日になるに違いない。