【和婚をつくる人】
玄冶店 濱田家 女将 三田啓子さん
凛とした品格と、我が家のような温かさと
かつて茶の湯の流行に伴い、邸宅に用いられた数寄屋造り。簡素さの中に美を見出す趣が好まれ、料亭や茶屋などを通じて広く普及した建築様式も今では希少となり、東京で現存する数寄屋造りの料亭は「濱田家」のみ。大正元年創業、名料亭の看板を背負うのが女将の三田啓子さんだ。
「建物自体が息をしている。お客さまにご不便をかけることもあるのですが、この家を守り継いでいきたいと思います」
手入れの行き届いた邸内に並ぶ調度品や美術品は大切に受け継がれてきた逸品ばかり。名店の凛とした品格を保ちつつ、同時に実家に帰ってきたような温もりをお客さまに感じとってもらいたいと三田さんは語る。
「たくさんお店がある中から選んでいただくためにも、歴史というのは大事。料理も、しつらえも、おもてなしも、付け焼き刃ではいかないことばかり。料亭としての昔ながらのありようを時代の風を採り入れながら今も大切に守り続けています」
「第二の我が家」といわれる心づくしのおもてなし
濱田家の結婚式は1日1組、最大60名までと決まっている。熟練のスタッフがゲスト一人ひとりに目を配れる人数には限りがある。お客さまに微かな不安も与えぬよう、いつも笑顔で。婚礼だからと一般客と区別することはせず、どんな席でも普段通りを心がけ「濱田家のお客さま」として対等に接する。マニュアルはあえてもたず、「わがままのきく店」でありたいという。
派手な演出もなければ、BGMもない。喧騒の多い東京では、静けさもまたひとつのごちそう。四季を映す花に合わせた軸を眺めながら、美しい器に盛られた祝い膳とともに、大切な人たちと一生心に残る会話を楽しんでほしいという。そんな濱田家のおもてなしに心打たれ、結婚記念日やお宮参りで「第二の我が家」へと戻ってくる夫妻も多いそう。
「うちで結婚式をしてくださった方は、皆さん濱田家の家族。ご両親に喜んでもらえたとお手紙をくださったり、お子さま連れで顔を見せてくださったりする時が何よりもうれしいです」
問い合わせ/玄冶店 濱田家
初出:「日本の結婚式」No.27
取材・文/山葵夕子