神前式の流れが知りたい
〜なるほど神前結婚式
結婚式にはさまざまなスタイルがある。ドレスに身を包んだキリスト教会での挙式、和装ならお寺での仏前式や神社などでの神前式。そのほかに親族や友人・知人だけの前で行う人前式もある。結婚式のスタイル選びは衣裳やイメージ、規模に主眼が置かれるだろう。だが、どういうスタイルの挙式を選ぶかは、「どなたの前で結婚を誓い、新しい夫婦・家族の幸を願うのか」、ということでもある。ここでは神社や式場の社殿での「神前結婚式」を、その流れとともに紹介しよう。
神前結婚式は、日本人が古くから大事に敬ってきた日本の神様の前で挙げる結婚式のこと。神社での儀式は非日常で特別な感じもするが、八百万(やおよろず)といわれるほどたくさんいる日本の神様たちとのお付き合いは、日本人の暮らしに古くから深く浸透している。新しい年を祝う初詣や、無事の成長を祈る七五三はもちろん、日々、口にしている「いただきます」の言葉も食物を司る神様への感謝から始まっているのだ。神前結婚式で式次第をひとつずつ見ていくと、日本人がどのように神様とお付き合いしてきたか、その神様が新郎新婦の結婚をどのように見守り、祝福してくださるかがよくわかるに違いない。
1-参進
厳かな心持ちで神様の前に進む
準備を整えた控室から、神前結婚式を執り行う社殿に向かう。神社によっては、新郎新婦を中心とした行列を組み、社殿に向かって境内をゆっくりと進んでいく。これが参進の儀だ。単なる行列ではなく、これも儀式。神職や巫女を先頭にゆっくりと進むなかで、神様に近づくことを意識し、歩を一歩進めるごとに心身を清める。参進によって、神前に臨むのにふさわしい心持ちになることが大切だ。
2-拝殿着座
神様のおそば近くの拝殿に着席
社殿の造りは神社によって異なるが、一般的には、建物の奥から本殿・幣殿・拝殿となっている。本殿は神様が鎮座されているところ。その前の幣殿は神様への捧げ物などの場所。そして、いちばん手前が新郎新婦や親族、つまり儀式を挙げる人たちが着座するところだ。拝殿に入ることは、本殿にいらっしゃる神様の前、おそば近くに行くことなのだ。座り位置は、神様の側から見て新郎が左で新婦が右。これは、左を上座とする習慣に由来している。
3-修祓
まずは身も心も清らかにする
日本の神様がもっとも大事にされていることのひとつが「清浄であること」。そのために、結婚の儀式を行う前に、祓い清めの修祓を行う。人は日々暮らしているだけで、知らず知らずのうちに罪を犯し、穢(けが)れをまとってしまうもの。修祓では神職によって、「罪・穢れを祓い清めてください」と祓はらえことば詞があげられる。参列者が祓い清められたのち、あらためて神様をお迎えする。
4-斎主一拝
はじまりに際して神様にご挨拶
いよいよ神様の前での結婚式の始まり。斎主(儀式を司る神職)を筆頭にして、新郎新婦、参列者全員で神様にご挨拶をする。一同、起立し、斎主に合わせて拝礼。「拝」とは、腰をしっかりと曲げた深いお辞儀のこと。新婦はお衣装や髪飾りなどが重くて、なかなか深いお辞儀が難しいかもしれないが、心のなかでしっかりと神様への気持ちを込めれば大丈夫。
5-献饌
ご報告の前に御饌を捧げる
神様に結婚のご報告などをする前にすべき大事なことは、御饌を捧げること。御饌は神様の召し上がり物。米やお神酒、水や塩、山の幸・海の幸と、神様がよろこばれるものを捧げる。目上の方のところにうかがうったり、おもてなしする時は、その方がよろこばれるものを持参したりお出ししたりするが、それと同じことだ。献饌は新郎新婦ではなく、仲とりもちである神職が行う。神酒の入った瓶子は蓋とり、神様に召し上がっていただく。
6-祝詞奏上
新郎新婦の結婚をご報告する
いよいよ新郎新婦の結婚を神様にご報告。そのための祝詞を斎主が奏上する。「祝詞」とは、神様に祭儀の目的や内容、祈願などをお伝えする言葉のこと。現代の言葉ではなく、神様に伝わる古い大和言葉が使われている。結婚式の祝詞のなかには結婚のご報告だけでなく、新しい夫婦や家族が末長く幸せであることを願う内容も織り込まれている。
7-三献の儀
盃を交して夫婦の契りを結ぶ
ご報告・祈願の後、神様の前で新郎新婦が盃を交わし、夫婦の契りを結ぶ。この介添えをするのは巫女だ。巫女の持つ銚子に入っているのは、お神酒。お神酒をはじめ、神様に捧げた御饌は、古来、神様の力が宿ると考えられてきた。そのお神酒を神前から下げて、いただく。新郎新婦が同じ盃を使ってこのお神酒 を飲むことで、夫婦として固く結ばれ、神様の加護を受けることになる。
8−誓詞奏上
よき夫婦となることを誓う
ここまでは神職や巫女に誘われるようにひとつずつ進んできたが、ここでは新郎新婦、自らが神様の前に立ち、これから夫婦として歩む誓詞(誓いの言葉)を奏上する。多くが新郎によって奏上される。誓詞は祝詞とは異なり、現代の言葉が使われている。神社や式場によっては、新郎が自らの言葉で綴り、奏上してもよいとしているが、ひな形もちゃんと用意されている。
9−巫女舞の奉奠
神様のよろこぶ祝いの舞を捧げる
神社にもよるが、式の後半で巫女による舞が奉奠(ほうてん)される。これは参列者のためというより、神様のために舞われるものだ。日本の神様は歌舞音曲がたいそうお好きである。その神様に舞を捧げてよろこんでいただき、より一層、新郎新婦や親族を祝福していただこうとするものだ。神前結婚式で一般的に舞われる主な演目には、神々と人がともに心穏やかに無事であるようにと祈る「浦安の舞」と、神の恵みに感謝する「豊栄の舞」などがある。
10−玉串拝礼
神様への真心を自らの手で捧げる
神前結婚式のなかで、新郎新婦がもっとも神様のおそば近くに行くことになるのが、玉串拝礼かもしれない。榊(さかき)の枝に木綿(ゆう)や紙垂(しせ)を付けた玉串は、奉納する人の真心をさし止めたものとされている。それを新郎新婦自らの手で神前に捧げ、続いて二礼二拍手一礼する。これは神様の加護に感謝する気持ちを表すことでもある。玉串拝礼には作法があるが、事前に教えてもらえる。
11−親族盃の儀
両家みんなで固めの盃を交す
「結婚」は新郎と新婦だけが結ばれるのではなく、両方の家族が結ばれることでもある。式の最後には、両家の親族一同で盃に注いだお神酒をいただき、親族固めの盃とする。新郎新婦を中心に、ふたつの家族・親族がひとつに結びつくことになるのだ。かつては盃を酌み交わしていたが、今は巫女がそれぞれの盃にお神酒をつぎ、一同で飲み干すかたちになっている。
12−撤饌(てっせん)
神様に捧げた御饌をお下げする
式が終わりに近づいたら、神様に捧げた御饌、つまりお召し上がり物をお下げする。ちなみに、神様に捧げた御饌には神様の力が宿っているので、「御下賜品(おかしひん)」として大事にされる。盃の儀で出される結び昆布も御下賜品だ。
13−斎主一拝
滞りなく進んだ式の最後にご挨拶
儀式がすべて滞りなく終わったら、最後にあらためて神様に一礼する。斎主に合わせて、一同、起立し、新郎新婦の結婚を祝福してくださった神様に心を込めて1回拝礼。これでお開きとなる。
※参考文献/『三三九度―盃事の民俗誌』(神崎宣武・岩波文庫)『冠婚葬祭のひみつ』(斎藤美奈子・岩波新書)ほか