天に祈りを捧げ、
人と人とを結ぶ「儀式の衣」
婚礼衣裳は儀式の衣であり、祈りの衣であり、契りの衣だ。生命を受けたその日から、最も幸せに満ち、輝く瞬間。大いなるものや育ててくれた親や家族に感謝しつつ、心新たに嫁ぐ慶び。
総勢30人の職人たちによる祈りのなかでうまれる白無垢
究極の儀式の衣「御祓乃無垢」
真綿の入る白打掛に使う最高級正絹だからこそ拘る軽さと柔らかさ。着付師が手に取った瞬間、その軽さに驚くと同時に「しっかりとした仕立てで着付けがピシッと決まる」と太鼓判を押し、羽織った花嫁たちが「肌に吸い付くよう」とその着心地を絶賛する。一糸乱れない、最高峰の技巧を持った総勢30人の職人たちによるチームワークの賜物である。大切な儀式のための衣裳は、祈りのなかでつくられ、祈りのなかで納められる。
白無垢の白は、神々の前に立つ儀式で用いられる最も神聖な色。儀式は花嫁花婿の結婚報告の場であると同時に、互いの家族が同族となる誓いを立てる場でもある。玉砂利の上を厳かに歩く参進の儀、盃を口に付ける三献の儀、神様が宿られる榊(さかき)の枝を使った玉串拝礼など、神々の前で結婚奉告を行う神社結婚式では、美しい所作が求められる。先祖や仏の前で結婚を誓う仏前式においても同様だ。
その神聖な場において、花嫁が軽やかに、しなやかに、そして美しく儀式を執り行えるようにと、祈りを込めてつくられた白無垢こそ「日本の結婚式を守る会」の衣裳店だけが保有する「御祓乃無垢」だ。京都でも最高の技術を誇る職人たちが心を込めて手づくりし、京都・上加茂神社で神職により、一枚ずつ祓い清められてから花嫁の手元に。寿鳥の鶴や真圓(しんえん)、桜など、古来から大事に守り継がれた吉祥文様が最上級の正絹の上で厳かな輝きを放つ。
無垢、すなわち何にも染まっていない糸から織り上げられた白い絹地に、匠の技で縁起の良い吉祥文様が描かれていく。
銘と落款を入れて完成となる白無垢は、高名な作家・秋山章自ら世界文化遺産でもある京都最古の神社、加茂別雷神社(上加茂神社)に持参。祓い清められたあと、「ご神印」とともに花嫁のもとに届けられる。
寿祥珀 [じゅしょうはく]
花嫁を優しく包み込む最高峰の緞子を使用。大胆な大波模様の地に、光琳鶴(こうりんつる)の群れが飛び立つさまを金彩工芸で表現。背中と裾には、めでたさを表す四季の丸花が白箔やパール箔で優しくあしらわれている。神様に仕えるための清浄無垢な色、純白を身に付けた女性は、一度神様の元に戻り、それから再び人間の女として人間の男と結ばれるといわれている。白無垢の白は神の色、源の色、祈りのための最高の衣。
祈りの日。うれしさの日。慶びの日。崇高で不思議な縁で結ばれた”めでたさ”を纏う
母娘両世代に愛される「御祓乃衣」
白無垢同様、鮮やかな色うちかけもまた、家族同士を一つにつなぐ儀式の場には欠かせない。日本の結婚式を守る会が手掛ける色うちかけは伝統を重んじつつも、インスタ映えを意識する20代30代の若い花嫁にも好感が持たれるモダンで鮮やかな色使いが特徴。葉一枚も一つひとつ丁寧に刷毛で色づけていく本手描き友禅ほか、金彩や銀彩を贅沢に使用。粉から調合し、色を定めていく。
古来から続く和柄や和色はもちろん、時にロイヤルブルーやローズピンクといった洋色や洋柄も取り入れて、洋装に馴染みのある現代女性にも愛される風合い。デザインや色合いを思案するスタッフも、母親世代と娘世代の混合チーム。互いに意見を出し合い、両世代に愛されるうちかけ作りに取り組んでいる。
背中が最も豪華に描かれるのも、本手描き友禅のうちかけならでは。後ろ姿を見られることが多い花嫁のために、人々の視線が一番集まる場所を懇切丁寧に描いていく。
唯一無二の「着る芸術」は、まさに一幅の絵画に等しく、立体的かつ物語が伝わってくる。
花嫁とその家族の永遠の幸せを祈り、伝統を重んじながらも、常に新しいものを取り入れ、また新しいものを取り入れていきながらも、伝統工芸の技を守り続ける。
「一生の思い出になる大切な日に、花嫁さまが恥をかかないよう、しっかりと守りたい。」
奉慶のしめ[ほうけいのしめ]
独自開発の宝華(ほうか)ちりめんを使用した重厚感のある逸品。裾はきっぱりとした深い黒、顔近くは、花嫁を美しく照らす柔らかく甘い赤色を使用。縁起の良い吉祥文様である「束ね熨斗(のし)」が描かれており、輪郭は渋いグレーを使い、品の良い金砂子と金茶色の地色を浮かびあげる効果がある。金・白・墨絵の金彩工芸の粋を集めた飛び鶴が、ふたりの明るい未来を象徴するかのよう。
初出/日本の結婚式31号
文/山葵夕子